韓国/チョン・ジェウン監督/2022年/88分/ドキュメンタリー/韓国語
英題:CATS’ APARTMENT
提供:パンドラ/竹書房/キノ・キネマ/スリーピン
ソウル市内・江東区のかつてアジア最大と呼ばれたマンモス団地。老朽化で再開発が決まり、少しずつ住民の引越しや取り壊し工事が進んでいる。そこには住民に見守られて250匹の猫たちが暮らしていた。猫たちのこれからはどうなるのか?猫と住民によるお引越し大作戦が始まる。団地に住むイラストレーターや作家、写真家などの女性たちが中心となって活動する<遁村 団地猫の幸せ移住計画クラブ>(略称<トゥンチョン猫の会>)。住民のさまざまな意見を聞く会を催し、猫たちの顔を見分けるために写真を撮り、イラストを描いてパンフレットを作る。猫たちを再開発地域から安全な場所に移住させる。そんなささやかな営みから、猫という存在を通して、私たちが暮らす街や社会の矛盾や変化、未来へのヒントが見えてくることだろう。都市空間における生態系、アニマルライツ、環境といったテーマも盛り込み、この社会を幅広く考察する。猫を人間の対等なパートナーとして位置づけることで、都市の生態系の問題に対するさまざまな考え方に目を向けさせる作品だ。
20代の女性5人の友情、夢や恋、挫折、拾った子猫との関係をみずみずしく描き、韓国の女性監督や女性を主人公にした作品が注目を集めるきっかけになった、記念碑的傑作『子猫をお願い』(2001年)でデビューしたチョン・ジェウン監督。『子猫をお願い』は世界各国の映画祭で上映され、出演したペ・ドゥナらの女優を始めとして多くの受賞をもたらした。デビューから20年、チョン監督はフィクションとノン・フィクションを自在に手掛ける、独自の作品歴を誇る稀有な監督でもある。チョン監督待望の最新作は、地域住民に見守られ団地に暮らす<地域猫>と、そこに暮らす人々との交流と別れを描いたほんわか、あたたかなドキュメンタリーだ。2年半に及ぶ撮影を通じ、自由気ままに団地を闊歩する個性豊かな猫たちの姿を、地面スレスレに構えた猫目線のカメラで活き活きと描き出す。
会のメンバーは「『子猫をお願い』は私たちの世代では知らない人がいないほど有名な映画で、その監督にぜひ団地と猫を記録して欲しいという思いがあった」と話す。あたかも『子猫をお願い』に登場する少女たちが成長した姿と重なるような女性たちが、葛藤を抱えながらも柔軟に活動する様が繊細に捉えられている。
ソウル市の南東の端に位置し、当時、政府が進めていた大規模な住宅供給政策の一環として1980年に竣工。およそ18万坪の敷地に143棟が建てられ、5930世帯が暮らしていた。広大な敷地に10階建て以下の低い団地が建ち並び「マッチ箱団地」と呼ばれていた。
建築から20年ほど経った2000年代初めに再開発をめぐる議論が始まり、 2003年に再開発推進委員会が設立された。この団地は、広い敷地に十分な間隔を置いて低く建てられていたため「居住性」の面では快適だった。しかし、再開発を推進する人たちは、そのメリットについて「事業性」という観点から違う見方をしていた。 ソウルでほぼ唯一残った低密度の団地は、再開発すれば収益性が高かった。再開発組合が設立されてから、団地は急速に老朽化していった。再開発するためには、わざとてでも古く見せなければならず、多くの人が自分の家や近所の手入れをしなくなった。再開発は非常にゆっくりと、しかし着実に一歩ずつ進められた。
2017年に再開発が決まり、2021年末に撤去が完了した。
本作にも登場する住人のイ・インギュさんは再開発が具体化していると聞いた時、子供の頃からの全ての思い出が詰まった故郷が跡形もなく消え去るとは、とうてい信じられず、全てが無くなってしまう前に、少しでも記録を残しておくために、2013年に小さな個人の出版物とフェイスブックックのぺージを作って『アンニョン!遁村団地』というプロジェクトを始めた。
消え行く団地の記録は、その後も続きこれまで4冊の本が出版され、『猫たちのアパートメント』のほかに『家の時間(A Long Farewell)』 (2017年/ラヤ・キム監督)というドキュメンタリー映画も作られた。
(「Koreana」2020年春号より抜粋)
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コンスン
家を守る番犬については聞いたことがあるだろうが、門番猫は聞いたことがないだろう。だが、アパートの入口を誇らしげに守っている猫がここにいる。もちろん、本当に守っているわけではない。団地内のお店の前に座って、出入りする人を見守り、出迎えているだけ。薬局の前に並べられた箱の上にゆったりと座って通行人を観察するこの猫は、まるで人生を瞑想する神秘的な存在のように見える。そうした佇まいから、孔子(コンザ 공자)のような猫ということで、「コンスン」と名づけられた。
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トゥンイ
トゥンイが動くと、隠れていた2〜3匹の猫が自然に後を追い始める。肉付きのいい体格のトゥンイを囲んで、猫たちは左右にV字の陣形を作り、住人たちは無防備になる。とはいえ、敵の前でひっくり返って腹を見せる将軍はトゥンイだけのようだ。第3地区の住人なら誰もが記憶にある超人気猫だ。
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パンダル
野良猫は汚いと思っている人には、パンダルを見て欲しい。パンダルは一日中毛づくろいにいそしみ、毛についた汚れをきれいに落とす。第3地区の砂場の遊び場に暮らすパンダルの黒い毛並みは、いつもピカピカだ。大抵の野良猫が人を怖がるのに対し、パンダルは人懐っこい。だからといって、無理に友だちになろうとはしない。自分の縄張りを大切にし、人と共存する術を心得ている。
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カミ
団地周辺でカミを見かけたら、猫缶を用意しておこう。カミが人を見て喜んでいるのか、猫缶を見て喜んでいるのかはわからないが、カミはいつも遠くから喜んで走ってくる。4本の足が宙に浮いている時間の方が長いかもしれない。まるで、お小遣いをもらって、スーパーにお菓子を買いに行く子どものよう。だからカミは子どもたちに人気があるのかもしれない。
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イェニャン
この黄色いトラ猫に魅了された人が、「世界で一番かわいい猫」と言ったそうだ。それがきっかけで、イェニャンは一番愛される猫になった。丸い顔と生意気な表情は、住人たちの足を止めさせるのに十分だ。人は簡単に屈服してイェニャンにすり寄ってしまうが、イェニャンはおかまいなし。そんなイェニャンを、住人たちはさらに可愛がるようになっていった。
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ノレンイ
第3地区にカミがいるなら、第4地区にはノレンイがいる。この2匹が出会ったことがあるかどうかは誰にもわからない。しかし、もしこの2匹が出会ったら、団地全体がひっくりかえる大騒ぎになるかもしれないので、注意が必要だ。性格的には、ノレンイは超外向的。団地の中のすべての動物に挨拶しているのはノレンイだけだろう。悲しいかな、その挨拶はいつも好意的には受け取られない。
チョン・ジェウン JEONG Jae-eun 정재은
1969年3月、ソウル生まれ。
韓国芸術院総合学校映像院映画科第1期卒業。学生時代より短編を多数手がけ、「図形日記」(1998年)と「二人の夜」(1999年)で注目される。『少女たちの遺言』(1999年/キム・テヨン、ミン・ギュドン監督)でスクリプターを務めた後、2001年、同作品のプロデューサー、オ・ギミンが設立した映画会社<魔笛>の第1回監督作品『子猫をお願い』で長編デビューを飾る。『子猫をお願い』は、80年代生まれのミレニアル世代の女性たちの友情や挫折を、みずみずしい感性で描き、高く評価され、当時韓国ではまだ数少なかった女性監督が描いた現在進行形の女性の生き方が、幅広い世代の女性たちの共感を呼んだ。公開から20年を迎えた2021年には、本作の熱烈なファンによるクラウドファンディングの後押しもあり、4Kリマスター版も完成。長編デビューから20年。フィクション、ノン・フィクション双方での見事な作品歴のある稀有な監督だ。なお、<韓国動物権利擁護協会(KARA)>の代表理事も務める。
『語る建築家』(2012)、“Talking Architect, City: Hall”(2014)、“Ecology in Concrete”(2017)を含む建築ドキュメンタリー三部作を通じて、都市、建築とそこに生きる人々の生活を記録。建築家チョン・ギヨンの晩年の活動を追った『語る建築家』は韓国で4万人を超える観客を集め、2012年の韓国におけるインディペンデント映画興行の第1位を記録した。2018年には、久しぶりの長編劇映画となる、『蝶の眠り』を発表。主演の中山美穂と『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』などで知られるキム・ジェウクが共演する、日本を舞台にした日韓合作として注目を集めた。
- フィルモグラフィー
(Dはドキュメンタリー) -
1995年 卒業式(短編) 1996年 放課後(短編)エボラ・ウィルス(短編)街での女性禁煙(D/短編) 1997年 for Rose(短編)17歳(短編) 1998年 図形日記(短編)第1回ソウル国際女性映画祭最優秀短編賞 1999年 二人の夜(短編)第3回(加)リール・アジア映画祭出品他 2001年 子猫をお願い 第6回釜山国際映画祭 NETPEC賞/第1回大韓民国映画大賞・最優秀新人
監督賞/第31回ロッテルダム国際映画祭 KNF賞他多数2003年 その男事情あり(短編)(オムニバス映画『もし、あなたなら〜6つの視線』の一編) 2005年 台風太陽〜君がいた夏(DVD発売のみ)第56回ベルリン国際映画祭正式出品 2012年 語る建築家(D)第16回 釜山国際映画祭正式出品 Give Me Back My Cat(中編) 2014年 Talking Architecture, City: Hal(D)第1回 野の花映画賞最優秀ドキュメンタリー賞他) 2017年 Ecology in Concrete(D)第22回釜山国際映画祭他正式出品 2018年 蝶の眠り 第22回釜山国際映画祭正式出品 2022年 猫たちのアパートメント(D)第12回DMZ国際ドキュメンタリー映画祭Distribution Support Award/第4回平昌国際平和映画祭/第24回ソウル国際女性映画祭
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角田光代(作家)
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彼女たちは愛と自己犠牲に溺れないように、猫への冷静な視線を忘れずにいる。何のために猫を助けるのか、そもそも猫を助けるとはなにか。自分と向き合いながら、猫と向き合っている。
坂本美雨(ミュージシャン)
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作者はカメラを通して猫に優しいまなざしを向ける。猫と一体化している。そしてこの社会は人間だけのものじゃないということを写し抜く。共に暮らした時間と場所、その記憶が可視化され、それは猫たちの人懐こさや賢いうしろ頭に滲み出ていた。観終わったとき、「誰だってずっとそこに住んでいたいよね!」と声に出して言ってしまった。
浅生ハルミン(イラストレーター、エッセイスト/
「私は猫ストーカー」「猫の目散歩」) -
人はなぜペットのためにここまで献身的になれるのか。牛や豚や鶏を好きなだけ食い、勝手に避妊手術させたりすることへの贖罪意識からだろうと思っていましたが、どうもそれを越えてますね、この映画は。
いがらしみきお(漫画家/「ぼのぼの」)
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ネットを開けばネコ動画が溢れる時代にネコだらけの映画をスクリーンで見る価値はあるのか? はい、あります。膨大な時間と手間をかけて記録された、ここでしか見られないネコとヒトの抜き差しならない関わりに思考を刺激されまくる。移ろう街の諸行無常に残された優しい88分でした。
深田晃司(映画監督)
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猫の幸せを最優先に考え、地道な活動をする人たち。答えはない。ときに自分のやりかたに悩みながら、それでも猫に寄り添い続ける。ただ、猫が好きで。保護猫と暮らし始めたばかりのわたしだが、すごくそんな気がする。
長島有里枝(写真家)
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人々の孤独と愛を糧に丸々と太った猫たちが韓国最大の団地に暮らしている。将来への不安はないように見えるが、猫知れず進む団地の取り壊し計画。置き去りにされる彼らを助けようとする人々の活動が、猫たちの豊かな表情と共に描かれている。「いままでありがとう」では済まない命の問題。
友森玲子(動物愛護団体代表)
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相手が何を考えているのか、何をすれば本当に相手のためになるのかわからないので必死で考え続ける。
猫とつきあうことは人生そのものと同じだなと思いました。ネコチャンは人生。今井哲也(漫画家/「ぼくらのよあけ」)
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「幸福」について考える(悩む)映画です。
大げさではないんです。
見るとわかります。
韓国語を勉強する人にも良い映画です。
猫に話しかけるときはみんな
優しい言葉を使うから。斎藤真理子(韓国語翻訳者)
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愛着というものを、猫は持つのだろうか。人はなぜそれを捨てられるのだろうか。考えさせられた。
ただの「猫引越大作戦」ドキュメンタリーじゃないよと強く言っておきたい。夏目知幸(ミュージシャン/exシャムキャッツ)
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彼らにとっての「楽園」が無くなることをどう説明すればいいのか?気にしない人は気にしない、知らない人は知らないまま新しい建物が建ち、時間と共に風化してしまう。そんな中で猫たちをどうにかしようと頭を悩ませる猫ママ達。救うとは?何が正解?終わりがあるのか?猫は何を望む?「猫と話ができればいいのに」という人間の言葉には共感しかない。
中山うり(シンガーソングライター)
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再開発を避けてどこかに移住しなければ猫たちの境遇は、今日、生活の場を失って漂う人々の状況と似ている。このように『猫たちのアパートメント』は都市空間に対する観察をもとに都市生態系の中の動物と人間の共存と共生に関する疑問を投げかける。
cine21
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このドキュメンタリーで最も印象的なイメージは、高い位置から見下ろす団地の建物だけの景色だ。『猫たちのアパートメント』は再開発という巨大工事の裏側を見つめ、私たちが住む「空間」の意味を照らし出す。
韓国中央日報
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『猫たちのアパートメント』では猫を思いやりの対象としては描かない。猫たちが経験する苦痛を安易に消費せず、人間を中心に設計された都市について考察させる。本作から発せられる疑問は猫に留まらない。建物の中に飛び込み窓の中に閉じ込められた鳥、根っこから抜かれていく樹木など、都市空間で死に消えゆくものをカメラは捉える。
kuki news.com
順不同・敬称略
韓国版の様々なグッズが
チョン・ジェウン監督から届きました。
1等 “CATS’ APARTMENT”写真集
2等 オリジナル・ポスター(A3サイズ)
3等 出演者キム・ポドさんのイラストシール
4等 オリジナル・カード
1月2日(月) ヒューマントラストシネマ有楽町
1月3日(火) ユーロスペース
にて限定数を抽選でプレゼント致します。
地域 | 劇場名 | 公開日 | 備考 |
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東京都 | ユーロスペース | 上映終了 | |
東京都 | ヒューマントラストシネマ有楽町 | 上映終了 | |
東京都 | 下高井戸シネマ | 上映終了 | |
東京都 | 早稲田松竹 | 上映終了 | |
東京都 | シネマネコ | 上映終了 | |
神奈川県 | 横浜シネマリン | 上映終了 | |
神奈川県 | 川崎市アートセンター | 上映終了 | |
神奈川県 | あつぎの映画館kiki | 上映終了 | |
千葉県 | 千葉劇場 | 上映終了 | |
千葉県 | キネマ旬報シアター | 上映終了 | |
埼玉県 | 川越スカラ座 | 上映終了 | |
北海道 | シアターキノ | 上映終了 | |
青森県 | シネマディクト | 上映終了 | |
宮城県 | フォーラム仙台 | 上映終了 | |
福島県 | Kuramoto | 上映終了 | |
栃木県 | 宇都宮ヒカリ座 | 上映終了 | |
栃木県 | 小山シネマロブレ | 上映終了 | |
群馬県 | シネマテークたかさき | 上映終了 | |
静岡県 | シネマイーラ | 上映終了 | |
静岡県 | 静岡シネ・ギャラリー | 上映終了 | |
愛知県 | 名演小劇場 | 上映終了 | |
愛知県 | 刈谷日劇 | 上映終了 | |
長野県 | 上田映劇 主催:一匹でも犬・ねこを救う会 | 2023年11月25日(土) 1日のみの上映 | |
長野県 | 長野ロキシー | 上映終了 | |
新潟県 | シネウインド | 上映終了 | |
新潟県 | 高田世界館 | 上映終了 | |
富山県 | ほとり座 | 上映終了 | |
京都府 | アップリンク京都 | 上映終了 | |
京都府 | 出町座 | 上映終了 | |
大阪府 | シネリーブル梅田 | 上映終了 | |
大阪府 | シネヌーヴォ | 上映終了 | |
兵庫県 | 元町映画館 | 上映終了 | |
兵庫県 | 豊岡劇場 | 上映終了 | |
岡山県 | シネマクレール | 上映終了 | |
広島県 | サロンシネマ | 上映終了 | |
山口県 | 山口情報芸術センター | 上映終了 | |
香川県 | ホールソレイユ | 上映終了 | |
高知県 | ゴトゴトシネマ | 上映終了 | |
福岡県 | キノシネマ天神 | 上映終了 | |
大分県 | シネマ5 | 上映終了 | |
大分県 | 別府ブルーバード劇場 | 上映終了 | |
大分県 | 日田シネマテークリベルテ | 上映終了 | |
佐賀県 | シアターエンヤ | 上映終了 | |
佐賀県 | シアターシエマ | 上映終了 | |
宮崎県 | 宮崎キネマ館 | 上映終了 | |
熊本県 | Denkikan | 上映終了 | |
鹿児島県 | ガーデンズシネマ | 上映終了 | |
沖縄県 | 桜坂劇場 | 上映終了 |
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動物を愛することは、人間を憎むことではない。ボランティアのひとりが語るこの言葉に、彼らの闘いのすべてがあらわれている。この闘いはまったき愛に基づいている。