フォト・ドキュメンタリー『鉛筆と銃 長倉洋海の眸(め)』監督・撮影 河邑厚徳 Pencil and Gun

永遠の時を駆けろ

Introduction イントロダクション

写真家は過去にさかのぼり未来を見通すシャーマン。
鷹の眼で世界を見つめ 愛をこめて人間を写してきた。
運命的な出会いにも恵まれた。
文明の十字路アフガニスタンでソ連と戦ったマスードと仲間たち。
その死をのりこえ今も続ける山の学校の記録。
歴史は、流れつづける大河である。長倉はその岸辺に立ち、
森羅万象に眸をそむけることなくレンズを向けた。
人類の業を見たのか、希望を見つけたのか?

「もう少し早く生まれていたら
ベトナム戦争に飛びこんで決定的瞬間を撮ることも出来たかもしれないけど、
遅れてきた僕は、自分しか撮れない写真を探した。それが今につながっている」
「自分の目の前の人間の心に入っていくことを核にして
写真を撮っていくというのが僕のスタイルです。
先輩からは、もっと茫洋とした人間、
人はどこからきてどこへ行くのかを考えるような大きな人間になれと言われました。
その時はなにくそと思ったが、今思うと深い意味を持っていたんだと気づきます」

監督・撮影
河邑厚徳
製作・著作
アフガニスタン山の学校支援の会
ルミエール・プラス
ナレーション
山根基世

2023年/日本/81分/カラー+モノクロ/ドキュメンタリー

配給
パンドラ

Concept コンセプト

長倉の一人称で切れ良く語り進めてゆくハードボイルド作品
半世紀にわたり地球規模で撮り続けた写真家の軌跡を叙事詩的に構成

企画の柱① 写真家に必要なのは対象を射抜く眼。
長倉は時代を目撃するスタートラインに立った。

写真家 長倉洋海の誕生

1952年釧路の雑貨屋に生まれる。小学三年の時に親が買った地球儀に世界への夢を育て、大学では探検部に属した。ベトナム戦争を写した報道写真(ピュリッツアー賞作品など)に憧れて報道カメラマンを目指す。「目の前で現代史が動きその一ページがめくられていく。自分自身がその現場に立ち感動したい」と通信社に勤めた。

挫折とそれを乗り越える野心と負けず魂

しかしベトナム戦争は過去のもので思うような仕事は与えられなかった。「歴史を激的に動かすような一枚」を撮りたいと三年で辞職しフリーとなる。世界では紛争が続き、各地で人々が傷ついている。約一年間、決定的瞬間を求めてアフリカ(ローデシア・南アフリカ)中東(レバノン、アフガニスタン)アジア(タイ・カンボジア・ビルマ国境地帯・フィリピン)などで孤独な一人旅を続ける。しかし期待した写真が撮れず冬の寒風が吹く東京へ帰った。「紛争地域に立っても戦闘はざらになく、それを撮ることは難しい」。フリーになる前に通信社の先輩、岡村昭彦から聞いた「もっと茫洋とした人間、人はどこからきてどこへ行くかを考えるような大きな人間になれ」という言葉をかみしめる。

企画の柱② 誰も写さないものを?
長倉洋海の手法が少しづつ生まれる。

天使と出会う

どの現場を選ぶかは写真家のセンスと運である。長倉は日本人が誰も取材していない中南米エルサルバドルに向かう。戦闘場面を撮るだけが戦争写真ではない、そこに生きている人間を通して戦争の真実や残酷さが描けるはずだ。難民キャンプで泣きじゃくる三歳の少女に出会った。「彼女は光が差さない路地の奥で真っ白な服を着ていた。背中で結んだ白布が天使の羽のように見えた」
出来事を取材するニュース写真ではなく、現場に何年も通い一人の人間を見続けるという長倉のカメラアイがここから生まれた。長倉はヘスースが子どもに産み、念願の結婚式をあげるまで記録した。自分の関心と思いをカメラに乗せる長倉洋海の世界が始まった。

マスードとの運命的な出会い

アフガニスタンでは侵攻したソ連軍に抵抗する戦いが続いていた。欧米のメディアは一人の若き司令官に注目していた。長倉は自分と同世代の若者が部族間、世代間の対立を超えて勝利し続けていることに惹かれた。1983年、5000メートルのヒンズークシュ山脈をこえマスードの懐に飛びこみ受け入れられた。最初100日間をイスラム戦士(ムジャヒディン)と共に行動し、二人は運命的な信頼関係をつくりあげていく。一人の人間としてのマスードに惹かれていき、彼の全てを写した。「ファインダーを通すと、指導者マスードの孤独がかいま見えた。マスードは類いまれなる戦略家だったが周辺国の介入や内部の対立が彼の思いをはばんだ。信仰だけが彼の拠りどころだった」
ソ連はアフガニスタンから撤退し、ようやく平和な時代が来るが長続きしなかった。各派の対立が深まり戦闘が続き、やがてタリバンが台頭。2001年9月9日マスードはアメリカ同時テロの2日前にイスラム過激派により暗殺される。長倉にとり悪夢のような出来事だった。

  • アフマッド・シャー・マスード(1953-2001年)

    自由と平和を信じてアフガニスタンのために戦い続けたレジスタンスの英雄。アメリカ同時多発テロの2日前の2001年9月9日、ジャーナリストを装ったアラブ人自爆テロによって暗殺された。

企画の柱③ 失意の中から立ち上がった
長倉の不屈の魂を見る

マスードの死を超えて山の学校を支援し、
新しい希望を見つけた

長倉の心にマスードの言葉が生きている。「彼は逝ったけど僕の中から消えてない。亡くなっても終わりじゃない、彼は決して希望を捨てることはなかったから、まわりの人が望みを託して一緒にやってきた。僕は学校を通して未来を切り拓く手伝いが出来る。子供を見続け、同時にアフガニスタンを見続けていく事、それが僕のマスードとの関りで生まれた新しい僕自身です」マスードの意思に応えNGOを立ち上げて、長倉とアフガニスタンの第二章が始まった。マスードとともに戦ったイスラム戦士が銃を置いて教壇に立ち、小さな男女共学の学校が生まれた。

豊かな天然資源や、大きな産業もなく、戦禍に苦しむ国に生きる子供の瞳の輝きを世界に伝える。

教室で使う机やイスをプレゼントした。一本の鉛筆、一冊のノートに喜び笑顔を見せる生徒たち。経済の不平等と同じように情報の不均衡も世界を覆っている。私たちは欧米中心のニュースしか知らされていない。そこで見えないものは存在しないものとなる。長倉が辺境の学校に20年通い記録してきた子供たちの成長の物語がなぜ私たちの心を打つのだろうか。私たちが失ってしまった何かがそこにある。無垢な子供の笑顔は美しく、愛おしい。マスードと過ごした17年を超え学校の記録は長倉のライフワークとなった。

企画の柱④ 長倉は「希望を失うことなく未来へ」
と会報に書いた。
終わりがない物語に立ち向かう

最初に出会った生徒たちは成長して社会に出た。卒業生たちは医療従事者、教師、電気や水道のエンジニアなどとなった。しかし、アメリカ軍が撤退し再びタリバンが権力を掌握した。タリバンの弾圧を逃れて子どもたちと家族はカブールへ。一部の住民たちが戻ったが状況は安全とはいえない。「ウクライナ侵攻、イラン反政府運動など世界情勢は混とんとしているが、状況が好転することを信じて、ブレることなく教育支援と地域復興支援に取り組みます」。支援の会は支援活動を続ける決意をした。長倉の物語はまだまだ続く。「絶望してはいない。心はふつふつと燃え滾っている」

  • アフガニスタン山の学校支援の会

    2004年、「教育でこの国を再建したい」というマスードの思いを引き継ぐべく、代表・長倉洋海により発足されたNGO。2003年にはパンシールの学校に窓・扉を取り付け、机・椅子が搬入された。教職員の雇用、送迎、給与支援、図書館の建設、物資の支給など多岐に渡る支援を現在も継続して行っている。
    ★公式サイト:https://h-nagakura.net/yamanogakko/

Hiromi Nagakura 長倉洋海プロフィール

長倉 洋海(ながくら・ひろみ)

1952年、北海道釧路市生まれ。写真家。京都での大学生時代は探検部に所属し、手製筏による日本海漂流やアフガン遊牧民接触などの探検行をする。1980年、勤めていた通信社を辞め、フリーランスとなる。以降、世界の紛争地を精力的に取材する。中でも、アフガニスタン抵抗運動の指導者マスードやエルサルバドルの難民キャンプの少女へスースを長いスパンで撮影し続ける。戦争の表層よりも、そこに生きる人間そのものを捉えようとするカメラアイは写真集「マスード 愛しの大地アフガン」「獅子よ瞑れ」や「サルバドル 救世主の国」「ヘスースとフランシスコ エルサルバドル内戦を生き抜いて」などに結実し、第12回土門拳賞、日本写真協会年度賞、講談社出版文化賞などを受賞。
2004年、テレビ放映された「課外授業・ようこそ先輩『世界に広がれ、笑顔の力』」がカナダ・バンフのテレビ祭で青少年・ファミリー部門の最優秀賞「ロッキー賞」を受賞。2006年には、フランス・ペルピニャンの国際フォトジャーナリズム祭に招かれ、写真展「マスード敗れざる魂」を開催、大きな反響を呼んだ。

1952年 北海道釧路に生まれる。家業は雑貨屋
1971年 同志社大学入学。探検部に入部
1975年 アフガニスタンの遊牧民探査行
次第に戦場カメラマンを目指すようになる
1977年 卒業し、時事通信社に入社
1980年 退社してフリーランスとなる
アフリカ南部のローデシア(ジンバエブ)、南アフリカ、ソマリア、レバノン、ソ連軍侵攻下のアフガニスタン、ラオス難民キャンプ、カンボジア、フィリピンを取材
1982年 エルサルバドルで内戦を取材。難民キャンプで3歳の少女ヘスースと出会う
1983年 アフガニスタン・ヒンズークシュの5000メートルの峠を越えてマスードと運命的に出会う。この時にはマスードとイスラム戦士の同行を許され100日間の取材を果たす。日本写真協会新人賞受賞。以降マスードを17年にわたり撮り続ける
1984年〜85年 エルサルバドル再訪
1988年 ソ連軍撤退が始まったアフガニスタンでマスードと100日間を共にする
1992年 マスードの首都接近の報に駆けつける。マスードのカブール入城に同行・記録
1993年 土門拳賞受賞。続いてブラジル・アマゾンの先住民族クリチカ族、ヤノマミ族、ガビオン族など取材
2001年 9月、マスード、アラブ人過激派の自爆テロで亡くなる 10月ヘスースの結婚式にエルサルバドル再訪 11月アフガニスタンへマスードの墓参にいく
2002年 マスードの1周忌の際に初めて山の学校を訪れる
2003年 山の学校再訪、支援を決意
2004年 2月マスードの遺志を継ぎたいとNGO「山の学校支援の会」を設立し代表となる 以降、ほぼ毎年のようにパンシール渓谷の学校を訪問、子供たちの成長を撮り続ける
2011年 東日本大震災の東北3県を子供たちを中心に取材、継続して東北に通う
2015年 世界最寒のロシア連邦・サハ共和国、キュバーを取材
故郷釧路で長倉商店塾を開催する、毎年の恒例講座となる
2017年 「フォトジャーナリスト長倉洋海の眼」を東京都写真美術館で開催
アフガニスタン山の学校支援の会の第二期を開始
2023年 映画・フォトドキュメンタリー「鉛筆と銃 長倉洋海の眸」制作完成(七月)

Staff スタッフ

監督 河邑 厚徳 (かわむら あつのり)

映画監督。元NHKディレクター
1948年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、1971年にNHK入局。
ETV特集・NHKスペシャル・BS特集などを中心に現代史、芸術、科学、宗教、環境などを切り口にノンフィクション番組を制作。現代の課題に独創的な方法論で斬り込み、テレビならではの画期的な問題提起をするスタイルが特徴。これまで制作してきた番組は、国内外の賞で入賞するなど、その独自の手法は評価を得ている。定年後は女子美術大学教授、フリーでドキュメンタリー映画の制作を続ける。

【映画】
『鉛筆と銃 長倉洋海の眸』(2023年)
『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図全14部』(2022年)
『天地悠々 兜太・俳句の一本道』(2019年)
『笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ』(2017年)
『3D大津波 3.11未来への記憶』(2015年)
『天のしずく 辰巳芳子 “いのちのスープ”』(2012年)
【放送番組】
特集ドキュメンタリー「がん宣告」「私の太平洋戦争~昭和万葉集より~」、NHK特集「シルクロード」、NHKスペシャル「アインシュタイン・ロマン」「チベット死者の書」「長崎の子・映像の記憶」BSスペシャル「エンデの遺言~根源からお金を問う~」ETV特集「一枚のハガキ・新藤兼人」「霊魂を撮る眼・江成常夫」日曜美術館「無言館の扉 語り続ける戦没画学生」など多数。

Comments 推薦コメント

  • 柳田邦男(ノンフィクション作家)

    魂のカメラアイ

    長倉洋海さんのカメラアイは、魂のコミュニケーションだと、かねて感じてきた。 見る者の心を無条件に惹き付けてやまない紛争地や文明の最果ての地のこどもたちの屈託のない笑顔たち。 そして、この映画で最も感銘を受けたのは、 アフガニスタンの真の民族的独立を目指していたゲリラのリーダー・マスードの濁りなき少年のような笑顔。 品格のある笑顔だ。そして、貧しき建屋の中でも、斜面の草むらの中でも、静かに読書する姿。 彼が希求したアフガンの未来とは何だったのか。 彼亡き後、長倉さんたち日本の支援団体の基金で建てられた学校でひたむきに学ぶこどもたちの表情を丁寧に追うことで、 マスードのスピリッツの存在証明を描き出したのだと、私は受け止めた。

  • 稲垣えみ子(元新聞記者)

    この映画は、数々の賞を受賞した著名な写真家の輝ける経歴を描いた作品ではない。 かつて、決定的瞬間をモノにして世界に打って出んという「わかりやすい野心」に 取り憑かれていた普通の若者が、もがき、挫折し、しかしそこから一歩ずつ這い上がって、 今も「自分が本当に求めているもの」を、人々との出会いの中で追いかけ続けている、 いわば70代の青春映画である。

  • サヘル・ローズ(俳優・タレント)

    銃で奪われた命
    鉛筆がもたらした人権

    鉛筆で残せた歴史
    銃が潤した世界

    写真が語りだし
    コトバが響き渡る

    可哀想
    不運

    で、片づけられていく
    不条理な世界

    その、一瞬一瞬を
    シャッターで包んでいく

    写真に写る少年少女
    街並み、人々が
    今もこの世界で生きていてほしい

    生き延びていくために
    銃を握りしめる人々

    生き延びるために
    鉛筆を握りしめる人々

    どちらに
    未来が根づくのか

    映画を通して
    アナタの答えを見つけてほしい。

Theaters 上映情報

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地域 劇場 電話番号 公開日 備考
東京都 「アフガニスタン山の学校支援の会」報告会&上映会 武蔵野プレイス お申し込みはこちら 2024/10/26(土) 10:20~(上映会)受付
10:40~上映
※上映終了後、長倉さんによるミニトーク有。
東京都 東京都写真美術館ホール 03-3280-0099 9月12日(火)〜24日(日) 上映終了
神奈川県 横浜シネマリン 045-341-3180 2023/12/16(土)〜12/29(金) 上映終了
北海道 北見市端野町公民館 グリーンホール
長倉さんのアフタートーク付き
0157-22-6122 2024/3/30(土) 上映終了
北海道 置戸町立図書館
10:30開会
※長倉さんの講演付
0157-52-3202 2024/3/31(日) 上映終了
北海道 「アフガニスタン山の学校支援の会」
報告会&上映会
会場:北海道立釧路芸術館
【お問合わせ先】
長倉商店塾を
応援する会事務局
MAIL: nagakura.store@gmail.com
080-4504-1119
(17~21時)
2023/11/19(日) 上映終了
北海道 札幌シアターキノ 011-231-9355 2024/1/20(土)〜1/25(木) 上映終了
愛知県 シネマスコーレ 052-452-6036 2024/6/22(土)〜6/28(金) 上映終了
長野県 松本シネマセレクト 0263-98-4928 2024/2/23(金)・24(土) 上映終了
大阪府 シアターセブン 06-4862-7733 10月14日(土)〜20日(金) 上映終了
大阪府 「アフガニスタン山の学校支援の会」
報告会&上映会
会場:高槻城公園芸術文化劇場 南館
2024/2/3(土) 上映終了
大阪府 平和資料室特別展 写真家・長倉洋海「小さなともだち」映画&トーク
会場:サンプラザ生涯学習市民センター 視聴覚室
072-841-1259 2024/8/7(水)
午前10時~(開場/9時30分)
上映終了
京都府 同志社大学
会場:寒梅館ハーディーホール
2024/11/21(木) 1回目上映:15:00~(14:30開場)
2回目上映:18:30~(18:00開場)
京都府 京都シネマ 075-353-4723 10月27日(金)〜11月2日(木) 上映終了
兵庫県 神戸映画資料館 078-754-8039 11月10日(金)〜14日(火) 上映終了
島根県 フクミミ木次 0853-20-0075 2024/3/23(土) 上映終了
高知県 ゴトゴトシネマ 090-9803-9984 2024/1/5(金)•6(土) 上映終了
福岡県 ムーブフェスタ2024 主催:写真家長倉洋海『鉛筆と銃』映画を観る会(090-8223-6301) 2024/7/12(金) 上映終了
鹿児島県 ガーデンズシネマ 099-222-8746 2024/8/12(月・祝)・13(火) 上映終了

Screening 自主上映のご案内

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映画料(レンタル料金)

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