作品概要
16年の長きに渡り
国外輸出禁止となっていた幻の衝撃作が
30年の時を経て再びスクリーンに―

『百年の夢』は1972年に完成していながら、当局により16年間もの長期に渡り輸出を禁止されていた。禁止解除後の1988年、フランスのニヨン国際映画祭グランプリを始め、ドイツのライプツィヒ国際映画祭ではドン・キホーテ賞と批評家賞を授与されるなど、世界各地の国際映画祭で上映され高く評価されているた。日本では1989年、第一回山形国際ドキュメンタリー映画祭で『老人の世界』の題名で上映された後、1992年に『百年の夢』の邦題により劇場公開。今回は新たに開発されたデジタル・リマスター版による公開となる。
東ヨーロッパ、スロヴァキアの山あいで厳しい自然や孤独と闘いながら、農作業や羊飼いを生業として暮らす老人たちの日常生活と語りを、丹念に描いた本作は、生と死についての黙想とでもいうような、哲学的世界をつくりあげている。
スロヴァキアの山岳地帯に暮らす老人たち
老いるとは何か?
それぞれの生き様が人生の終わりを照らし出す
カルパチア山脈の東側、スロヴァキア南西部のファトラ山地。この痩せた土地で、厳しい自然条件や孤独と闘いながら、農業や羊飼いを生業として暮らす70歳以上の老人たち。からくり人形作りに熱中する男性。事故で歩けず25年間膝を使い暮らしてきた男性。めんどりに聖書を読み聞かせる男性。結核を患い、納屋で50年暮らすという農婦の姿は、いつか彼女自身の葬儀の写真に連なる。内なる自由をいきいきと生きる彼らにとっての愛や家族、夢、労働や人生の意義とは…
マルティン・マルティンチェクによる
老いと死を飾ることなく捉えた
スティル・ショットの数々
スティル写真を提供したマルティン・マルティンチェク(1913年~2004年)は、誤った告発のために公の生活から姿を消し、弁護士から写真家へと転身した後、写真に情熱を傾け続けたスロヴァキアの伝説の写真家である。映画には彼による40枚の写真が使用され、老人たちの“ありのまま”の姿を映し出す。
監督プロフィール
ドゥシャン・ハナーク
Dušan Hanák
1938年4月27日、チェコスロヴァキア(現在のスロヴァキア)のブラチスラヴァ生まれ。1960年代より、監督・脚本家として長い創作歴がある。プラハ芸術アカデミーで映画演出を学ぶ。短編ドキュメンタリーを20作以上製作し、オーバーハウゼンやパリのヤング・アート・ビエンナーレを始め多くの映画祭で受賞。2004 年<スロヴァキア共和国の文化的発展への特別な貢献>により、プリビナ一等十字勲章受章。ブラチスラヴァ舞台芸術ア カデミー映画・テレビ学部で教鞭も執っている。ドキュメンタリー、フィクションの垣根を越えて幅広く活躍するスロヴァキアを代表する監督の一人。主な監督作は下記。
1969年 | 『322』 | 第18回マンハイム国際映画祭グランプリ |
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1972年 | 『百年の夢』 | 1988年ニヨン国際映画祭グランプリ 1989年ヨーロッパ映画賞審査員特別賞 1990年LA映画批評家協会賞最優秀記録映画賞 1989年ヨーロッパ映画賞審査員特別賞 |
1976年 | 『Rosy Dreams』 | 第2回アレス国際映画祭グランプリ |
1980年 | 『I Love, You Love』 | 第39回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞) |
1985年 | 『Quiet Happiness』 | 第29回サンレモ国際映画祭グラン・プレミオ チェコスロヴァキア映画批評家賞 |
1990年 | 『Private Lives』 | ストラスブール国際映画祭審査員賞 |
1995年 | 『Paper Heads』 | サンフランシスコ国際映画祭ゴールデン・スパイア賞 山形国際ドキュメンタリー映画祭優秀賞 |
海外評・コメント
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老人たちの顔に刻まれた皴の深さのみで、人間の歴史を雄弁に物語る異色のドキュメンタリー映画。生きようと思えばどんな悲惨な時代、苛酷な場所でも生き抜けることを教えてくれると同時に、楽しむことさえできると映画は語る。手作りのからくり人形の素晴らしさ!!!
植草信和 (「キネマ旬報」元編集長)
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裸で生まれ、裸で死ぬ。ただ、土地に結ばれて。
人々の顔には、働き、愛し、歌い、傷つき、夢をみる ―人生の陰影が刻まれている。
その肖像は、人間性というものの秘密を語っているかのようだ。
もっとも崇高な、詩的体験。この映画の純粋に、目の眩む思いがした。近衛はな (女優・脚本家)
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名もなき、しわくちゃの名優たち、哲学者たちが語る悲喜こもごもの人生。
ジャンル不明の作風、悲惨で、シュールで、奇妙で、滑稽で、愛おしい絶滅危惧種 の世界に、
きっとあなたは、引き込まれるだろう。坂上 香 (ドキュメンタリー映画監督)
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天安門事件とベルリンの壁崩壊の年、山形でこの映画と出会った。
映画祭ホストの小川紳介監督が「すごくいいよ、これ」とふれまわっていた。
三里塚や古屋敷で農民たちの顔を捉えた小川さんには通じるものがあったのだろう。
今回もまた魅了された。
老人の顔と自分史の語りと劇伴のバロック音楽でどうしてこんなに感動するのだろう。石坂健治
(東京国際映画祭シニア・プログラマー/
日本映画大学教授) -
ヨーロッパ大陸ど真ん中の山岳地帯
既に十二分に生きた人々は 食って寝て働いてひたすら飲んでまた眠る
この連中には共産主義は太刀打ち出来ない
ただこの作品を輸出禁止にするだけだった
(輸出禁止はビロード革命の前年まで続いた)久米宏
(フリーアナウンサー) -
生きていることの根源的意味 ─「人生でいちばん大事なものは何ですか」。
そう問われたとき、何と答えるだろうか。
すでに遠い時代の老人たちの言葉にはじつに味がある。「お金より人生」「悲しみ」…。
そしていま。〈私たち〉はどんな表現ができるのか。有田芳生
(ジャーナリスト) -
どっしりとした面構え、天真爛漫な笑顔。
老木でも、葉をつけ花を咲かせる。
大地や人に寄りかかることなく、自分が歩んだ人生に根を張っている。
人生でも滅多に見られない映画、簡単に言葉にできない映画、私の心を強く捉えた映画だ。長倉洋海
(写真家) -
世界には今も桃源郷はあるのか。
裕福とは言い難い住民が言う、「大切なのは金じゃなく人生だ」紀平重成
(フリージャーナリスト) -
生々しく土の匂いがする映像。それにもかかわらず美しい。他に類を見ない体験だ
THE DEGITAL FIX
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詩的雰囲気に満ちた鮮烈な作品
FTF VŠMU
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美しい映像、巧妙な音響効果、興味深い登場人物が織りなす素晴らしい映画だ。田舎の生活と一体となった人びとの魅力的なポートレートである。
WAYBACK MACHINE
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『百年の夢』は老人たちの現実を、よりよく見せようとはせず、ありのままを映し出す。
人間への信頼と愛、芸術や人生から消えつつある価値観に敬意を示しているからだろう。Zemědělské noviny
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『百年の夢』には、ドキュメンタリーとしての真価―物語る力、人間への賛辞、人生哲学、人道的理想、映画言語、完璧なドラマツルギー―すべてが備わっている。
Slovak Film Success
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『百年の夢』は、あらゆる感情の中で最も人間的なもの-自由への憧れ-を私たちに投げかける。
Film a divadlo(1972年)
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『百年の夢』は、静的にして彫刻的なイメージで一遍の詩を紡ぎ出す。逆境を克服すること、流れる時に身を任せること、自然との調和。世界と人間の居場所に思いを馳せる強さを謳う詩のような映画だ。
Scéna
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被写体となった人々は芸術そのものである。
THE SKINNY