
トルコから出現した新しい才能
エミネ・ユルドゥルム第一回監督作
監督・脚本:エミネ・ユルドゥルム|キャスト:エズキ・チェリキ パルシュ・ギョネネン セレン・ウチェル
2024年/カラー/トルコ/トルコ語/112分
東京国際映画祭上映時邦題:「昼のアポロン
夜のアテネ」
日本版字幕:森澤海郎|宣伝デザイン:日用|宣伝:スリーピン(原田
徹)|配給:パンドラ
イントロダクション
この場所で本当のわたしを見つける
地中海に面したトルコの古代都市シデ
母親を探す旅の終着点で出会ったのは──
孤児として育ったイスタンブール生まれのダフネ。人嫌いの彼女がシデに来た目的は、自分を捨てた母親を探すこと。だが、ダフネに残された唯一の手がかりは、遥か昔にトルコの名もない遺跡で撮影された、母親のぼやけた写真だけだった。あてのない“人探し”を始めたダフネは、やがてシデにとどまる不思議な人々と出会い、彼らの協力を得ることに。「見返りは何?」彼らが助けてくれる度、尋ねるダフネ。果たして母は見つかるのだろうか?そしてダフネに思いもよらない結末が訪れる。原題はギリシャ神話に登場する男女の神―理性を司る太陽神アポロンと、知恵・学芸・戦争を司る女神アテネをタイトルに冠し、女性と男性、死者と生者と言った二項が並立しながらファンタジー風の物語が展開する。
黄昏時 古代から続く悠久の流れの中
人びとの思いが交錯する
愛する娘に気持ちを伝えたい娼婦、口のきけない巫女、“本心”を明かさない年齢不詳の男…ダフネが出会う不思議な人々もまた、彼女と同様ある<思い>を捨てられずに、シデを離れられずにいた。昼から夜へと移り変わる濃密な空気のなか、ダフネはシデにとどまる者たちの思いに直面する。シデは古代ギリシャでは港町として栄えた歴史ある町。アポロン神殿や円形劇場など2000年も前の空気が色濃く漂う街で、ダフネに次々に訪れる “目に見えないもの”との出会い。彼らとの交流を通して、ダフネは新たな自分を知っていくのだった~。
東京国際映画祭 アジアの未来作品賞受賞
トルコから現れた新しい才能
カンヌ国際映画祭の常連となっている、『雪の轍』『二つの季節しかない村』のヌリ・ビルゲ・ジェイランを筆頭に、『裸足の季節』のデニス・ガムゼ・エルギュヴェンなど、多くの映画作家を送り込んでいるトルコから新たな才能が誕生した。本作がデビュー作となるエミネ・ユルドゥルムは、アポロンやアテナなど、ギリシャ神話に登場する神々から着想を得た幻想的な物語を取り込みつつ、現代を生きる若き女性の成長譚に昇華させたトルコ期待の新人監督である。<自らのルーツを辿る>という普遍的なテーマを、トルコの古代遺跡群を背景に展開させた本作は、多くの観客の感動を呼び、2024年10月開催の<第37回東京国際映画祭>にて、アジアの未来作品賞を授与されている。




ストーリー
地中海に面した
トルコの古代都市シデ
母親を探す旅の終着点で
“自分”と出会う

イスタンブール生まれのストイックなプログラマーであるダフネは、自分を捨てた母を探し求めて、古代遺跡が残る地中海の都市シデを訪れた。彼女に残された唯一の思い出の品は、トルコの名もなき遺跡で撮影された、若い頃の母の不鮮明な写真だけ。
その滞在に、度々顔を出すのは年齢不詳の男性フセイン。彼とは移動するバスの中や墓地などダフネが訪れる場所にたびたび居合わせる。彼と付き合ううちに、孤児院育ちの彼女は不思議な人びとにめぐり合っていく。革命家、娼婦、口のきけない女性神官…不思議な人びとは、“母探し”への協力をお願いする度に引き受けてくれる。「見返りは何?」ダフネはその度に尋ねるのだった。
彼らの協力を得て、母の姿を追い、丹念に数々の古い町を歩き回り、ようやくアンタルヤ(※)に辿りついたダフネ。そこには驚くべき事実が待っていた…。古くからの歴史が息づく街で、思いもよらぬ結末にめぐり合ったダフネは、やがて新たな自分を知っていく—。
※アンタルヤ Antalya:トルコ南西部アンタルヤ県の県都であり、トルコ最大の海浜都市。保養地として世界的に知られ、世界中から一年に一千万人以上の観光客が訪れている。


監督

エミネ・ユルドゥルム Emine Yıldırım
トルコのMETU(中東工科大学)経営学部卒業後、ビルギ大学映画学修士課程で映画を学ぶ。EAVE(European Audiovisual Entrepreneurs)を2014年に修了。『シレンズ・コール』(2018年東京国際映画祭コンペティション出品)を始めプロデュース作も多数。
初の長編監督作である本作『わたしは異邦人』は、高く評価され、本年度のトルコの映画批評家連盟賞と、アンカラ・フライイング・ブルーム国際女性映画祭審査員特別賞を授与されている。なお、カディル・ハス大学で脚本を教えるかたわら、スタンダップ・コメディアンとしても活動している。
- フィルモグラフィー(監督作)
- 『Infinite Saudade』(2006年)短編
- 『Androktones』(2018年)短編
- 『Kadiköy'ün En Iyi Falcisi』(2023年)短編
- 『わたしは異邦人』(2024年)長編


シデについて
本作の舞台シデはアンタルヤの近くに位置し、古代ギリシャでは港町として栄えた歴史ある町。「トルコのリビエラ」といわれるアナトリア南西部の沿岸部では、古来独自のギリシャ系アナトリア文明が栄えた。BC2000年頃から点々と土着の勢力が発祥し、エーゲ海側から順にカリア、リキア、湾をはさんでパムフィルヤと呼ばれる地域に分かれる。シデがあるのは湾を越えた長さ1km、幅500mほどの小半島である。すぐ背後を峻険な連峰に隔絶されているため、アナトリア内陸部で帝国化したヒッタイトの支配は受けず、限界地域であることから海への展開が中心になり、クレタ文明、エジプト文明とも混淆した。オスマン帝国時代末期までギリシャ人・アルメニア人が多く暮らしていた。(文=野中恵子)


海外評 & コメント
-
家族、孤独、そして自らの道を切り開く女性であることの選択とその帰結など、多くのことが込められている。思慮深く魅惑的な作品だ。
Roger Ebert.com
-
死者と生者が共存する世界を描く、類を見ない作品。
過去と向き合い、未来へとつなぐ、誠実でウィットに溢れた映画。FIPRESCI
-
人間である限り、命をもった者である限り、その悲しさは同じなのだ。日常にある風景が神秘的に見える瞬間には、理由があると信じる。特撮でなく美しい風景と自然のささやきに溶け込む音楽、そして美しい人間の声と仕草で見せる新しいファンタジー。
馬場敏裕
(サウンドトラック・ナビゲーター) -
ひとりで旅する主人公。吹きさらしの古代遺跡にギリシャ神話の神々の気配が漂う街では、幽霊たちもすぐ隣で生きているみたい。現し世の人ならざる者たちと通じ合う「地味な能力者」系少女漫画やフランスの海辺の青春映画を彷彿とさせる、トルコからの新しい風。
野中モモ (翻訳者・ライター)
-
うつくしい映画だった。いくつかのシーンが、苦しいほどに愛おしかった。
監督は、物事の見えない連関を、言葉と映像でたくみにつないでみせる。
シデの街、生者と死者が、現代と古代が、母と娘の普遍的な情のうちに巡り合う。
ストーリーと芸術性が両立した、類まれな映像詩。
新たな傑作の誕生に、心から拍手をおくりたい。近衛はな (脚本家・俳優)
-
本作は過去と現在をつなぐシデという「場」に寄せる強い思いからスタートした。1960年、1980年などを筆頭に軍がクーデターを繰り返してきたトルコ現代史までを視野に入れた上で、太古の歴史と激動の現代をつなごうと試みる。トルコ映画の輝かしい系譜に連なる作品。
石坂健治
(東京国際映画祭シニア・プログラマー/日本映画大学教授) -
小アジアでは、古代ギリシャの時代から、海は常にそこにあり、時に荒々しい波や嵐とともに、人々の営み、生と死を静かに見守ってきた。地中海に生きる人々は、いつの時代でもそれを肌で感じてきた。たとえ、幽霊となっても。
サラーム海上
(音楽評論家/中東料理研究家) -
ギリシャ神話、古代遺跡好きも絶対観て!
これはトルコ沿岸の古代ギリシャの神殿という、特別な大地でしか実現しない物語です。
西洋と東洋、現代と過去、現実と神話がまじりあう……まさに不思議な浮遊体験。
原題の『昼はアポロン 夜はアテナ』や、散りばめられたギリシャ神話要素にも注目!藤村シシン
(古代ギリシャ研究家)
上映情報
地域 | 劇場名 | 公開日 | 備考 |
---|---|---|---|
北海道 | 札幌 シアターキノ | 2025/11/22(土)〜11/28(金) | |
栃木県 | 小山シネマロブレ | 2025/10/10(金)〜10/16(木) | |
栃木県 | 宇都宮ヒカリ座 | 2025/12/12(金)〜 | |
埼玉県 | OttO | 2025/10/3(金)〜10/7(火) | |
東京都 | ユーロスペース | 2025/8/23(土)〜9/12(金) |
9月8日(月)~11(木):10時05分 |
神奈川県 | 川崎市アートセンター | 2025/8/30(土)〜 | |
長野県 | 上田映劇 | 2025/10/10(金)〜 | |
愛知県 | ナゴヤキネマ・ノイ | 2025/9/20(土)〜 | |
京都府 | アップリンク京都 | 2025/9/12(金)〜9/18(木) | |
大阪府 | 第七藝術劇場 | 【近日公開】 | |
兵庫県 | 元町映画館 | 【近日公開】 | |
沖縄県 | 桜坂劇場 | 2025/10/4(土)〜 |