ダフネがアンタルヤの海を想うメインビジュアル

見えないものに導かれわたしはここに来た

第37回東京国際映画祭アジアの未来>品賞。2025年イスタンブール映画祭トルコ映画批評家連盟賞。2025年アンカラ・フライイング・ブルーム国際女性映画祭審査員特別賞

トルコから出現した新しい才能
エミネ・ユルドゥルム第一回監督作

わたしは異邦人

8月23日(土) 渋谷ユーロスペースにて公開!!

監督・脚本:エミネ・ユルドゥルム|キャスト:エズキ・チェリキ パルシュ・ギョネネン セレン・ウチェル
2024年/カラー/トルコ/トルコ語/112分
東京国際映画祭上映時邦題:「昼のアポロン 夜のアテネ」
日本版字幕:森澤海郎|宣伝デザイン:日用|宣伝:スリーピン(原田 徹)|配給:パンドラ

イントロダクション

この場所で本当のわたしを見つける

地中海に面したトルコの古代都市シデ
母親を探す旅の終着点で出会ったのは──

孤児として育ったイスタンブール生まれのダフネ。人嫌いの彼女がシデに来た目的は、自分を捨てた母親を探すこと。だが、ダフネに残された唯一の手がかりは、遥か昔にトルコの名もない遺跡で撮影された、母親のぼやけた写真だけだった。あてのない“人探し”を始めたダフネは、やがてシデにとどまる不思議な人々と出会い、彼らの協力を得ることに。「見返りは何?」彼らが助けてくれる度、尋ねるダフネ。果たして母は見つかるのだろうか?そしてダフネに思いもよらない結末が訪れる。原題はギリシャ神話に登場する男女の神―理性を司る太陽神アポロンと、知恵・学芸・戦争を司る女神アテネをタイトルに冠し、女性と男性、死者と生者と言った二項が並立しながらファンタジー風の物語が展開する。

黄昏時 古代から続く悠久の流れの中
人びとの思いが交錯する

愛する娘に気持ちを伝えたい娼婦、口のきけない巫女、“本心”を明かさない年齢不詳の男…ダフネが出会う不思議な人々もまた、彼女と同様ある<思い>を捨てられずに、シデを離れられずにいた。昼から夜へと移り変わる濃密な空気のなか、ダフネはシデにとどまる者たちの思いに直面する。シデは古代ギリシャでは港町として栄えた歴史ある町。アポロン神殿や円形劇場など2000年も前の空気が色濃く漂う街で、ダフネに次々に訪れる “目に見えないもの”との出会い。彼らとの交流を通して、ダフネは新たな自分を知っていくのだった~。

東京国際映画祭 アジアの未来作品賞受賞 
トルコから現れた新しい才能

カンヌ国際映画祭の常連となっている、『雪の轍』『二つの季節しかない村』のヌリ・ビルゲ・ジェイランを筆頭に、『裸足の季節』のデニス・ガムゼ・エルギュヴェンなど、多くの映画作家を送り込んでいるトルコから新たな才能が誕生した。本作がデビュー作となるエミネ・ユルドゥルムは、アポロンやアテナなど、ギリシャ神話に登場する神々から着想を得た幻想的な物語を取り込みつつ、現代を生きる若き女性の成長譚に昇華させたトルコ期待の新人監督である。<自らのルーツを辿る>という普遍的なテーマを、トルコの古代遺跡群を背景に展開させた本作は、多くの観客の感動を呼び、2024年10月開催の<第37回東京国際映画祭>にて、アジアの未来作品賞を授与されている。

ストーリー

地中海に面した
トルコの古代都市シデ
母親を探す旅の終着点で
“自分”と出会う

イスタンブール生まれのストイックなプログラマーであるダフネは、自分を捨てた母を探し求めて、古代遺跡が残る地中海の都市シデを訪れた。彼女に残された唯一の思い出の品は、トルコの名もなき遺跡で撮影された、若い頃の母の不鮮明な写真だけ。

その滞在に、度々顔を出すのは年齢不詳の男性フセイン。彼とは移動するバスの中や墓地などダフネが訪れる場所にたびたび居合わせる。彼と付き合ううちに、孤児院育ちの彼女は不思議な人びとにめぐり合っていく。革命家、娼婦、口のきけない女性神官…不思議な人びとは、“母探し”への協力をお願いする度に引き受けてくれる。「見返りは何?」ダフネはその度に尋ねるのだった。

彼らの協力を得て、母の姿を追い、丹念に数々の古い町を歩き回り、ようやくアンタルヤ(※)に辿りついたダフネ。そこには驚くべき事実が待っていた…。古くからの歴史が息づく街で、思いもよらぬ結末にめぐり合ったダフネは、やがて新たな自分を知っていく—。

※アンタルヤ Antalya:トルコ南西部アンタルヤ県の県都であり、トルコ最大の海浜都市。保養地として世界的に知られ、世界中から一年に一千万人以上の観光客が訪れている。

監督

エミネ・ユルドゥルム (Emine Yildirim) 監督の近影

エミネ・ユルドゥルム Emine Yildirim

トルコのMETU(中東工科大学)経営学部卒業後、ビルギ大学映画学修士課程で映画を学ぶ。EAVE(European Audiovisual Entrepreneurs)を2014年に修了。『シレンズ・コール』(2018年東京国際映画祭コンペティション出品)を始めプロデュース作も多数。

初の長編監督作である本作『わたしは異邦人』は、高く評価され、本年度のトルコの映画批評家連盟賞と、アンカラ・フライイング・ブルーム国際女性映画祭審査員特別賞を授与されている。なお、カディル・ハス大学で脚本を教えるかたわら、スタンダップ・コメディアンとしても活動している。

フィルモグラフィー(監督作)
Infinite Saudade』(2006年)短編
Androktones』(2018年)短編
Kadiköy'ün En Iyi Falcisi』(2023年)短編
『わたしは異邦人』(2024年)長編

監督の言葉

人生を肯定する
反家父長的な物語を書きたい

長い間、映画に対する社会的リアリズムのアプローチから離れた物語を書きたい、と思っていました。ジャンル映画(ファンタジー、スリラー)のファンで、どんなカテゴリーにも入れられない映画が大好きです。自分を少し解放したかったし、自分の限界に挑戦したい、と思っていました。脚本を書いている間、楽しく、明るくなりたいと思っていました(通常、書くプロセスは非常に苦痛になのですが)。今回は、トルコ出身のひとりの女性として、喜びと明るさをもって、私自身が見たいと思うもの、人生を肯定するような反父長制的な物語を書きたかったのです。アナトリアの草原の真ん中で、不幸な男たちが登場するようなありきたりな内容ではなく、私が住む土地の考古学的遺産や、古代の歴史が映像の中で際立つような脚本を書きたかったのです。

生きている間は、悲しみにくれることなく輝いて欲しい
人生は短く
時間はその代償を要求する

『わたしは異邦人』は、帰属と共感という概念を探求し、孤児として育った女性が死者や生者との交流を通して、いかにして人間としての感覚を取り戻していくかを描いた幽霊譚の形をとった、ファンタジーコメディです。本作は、罪悪感、悲しみ、そして残酷でありながらも、慈愛に満ちた世界における真のつながりの探求を目的とし、不幸を拒絶する不条理なおとぎ話でもあります。現在壊れつつある世界で、拒絶と抑圧にも関わらず、希望や友情、そしてスピノザの言う「純粋な喜び」を思い出す道を探る内容です。

本作は、アナトリアの古代地理が持つ異質な文化と絡み合った神話を含んでいる。世代から世代へ、文化から文化へと受け継がれてきたこのような神話と共に、私は育ちました。人々がトルコについて忘れているのは、トルコが人類文明における最古の地の一つであり、その歴史的遺産と遺跡は全ての人々への贈りものであるということです。このように考えると、シデの古い町がこの映画の舞台になったのは、偶然ではありません。シデは訪れる人それぞれが自己の感覚とつながり、自分たちがより大きな宇宙の一部であることを思い出させる、畏敬の念を抱かせる土地だからです。

人類の慈悲深い精神を受け入れることを選び、私たちが誰であろうと、私たちには個人的、集団的な物語を取り戻す力があることを、観客に思い出してもらうよう努めました。

シデについて

本作の舞台シデはアンタルヤの近くに位置し、古代ギリシャでは港町として栄えた歴史ある町。「トルコのリビエラ」といわれるアナトリア南西部の沿岸部では、古来独自のギリシャ系アナトリア文明が栄えた。BC2000年頃から点々と土着の勢力が発祥し、エーゲ海側から順にカリア、リキア、湾をはさんでパムフィルヤと呼ばれる地域に分かれる。シデがあるのは湾を越えた長さ1km、幅500mほどの小半島である。すぐ背後を峻険な連峰に隔絶されているため、アナトリア内陸部で帝国化したヒッタイトの支配は受けず、限界地域であることから海への展開が中心になり、クレタ文明、エジプト文明とも混淆した。オスマン帝国時代末期までギリシャ人・アルメニア人が多く暮らしていた。(文=野中恵子)

海外評 & コメント

  • 家族、孤独、そして自らの道を切り開く女性であることの選択とその帰結など、多くのことが込められている。思慮深く魅惑的な作品だ。

    Roger Ebert.com

上映情報

地域 劇場名 公開日 備考
東京都 ユーロスペース 2025/8/23(土)〜
神奈川県 川崎市アートセンター 2025/8/30(土)〜
栃木県 小山シネマロブレ 2025/10/10(金)〜10/16(木)
栃木県 宇都宮ヒカリ座 2025/12/12(金)〜
長野県 上田映劇 2025/10/10(金)〜
沖縄県 桜坂劇場 2025/10/4(土)〜

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