TALK EVENT REPORT
『ニッツ・アイランド
非人間のレポート』
松崎 "BRZRK"
マークさん
(フリーライター)
トークイベント レポート
2024年12月7日(土)
シアター・イメージフォーラム
Q:映画をご覧になっての率直なご感想をお聴かせいただけますか?
松崎"BRZRK"マークさん(以下、松崎さん):〈DayZ〉というゲームのサーバーは世界中に多くあるのですが、その中でも異質な方のサーバーでこのドキュメンタリーを作ったんだな、ということですね。つまり、ロールプレイ色が強い、と。本作では、登場するプレイヤーがそれぞれ何かしらの「役」を自ら進んで演じていますよね。ですが〈DayZ〉は、普通のサーバーでは割と「人影見たら撃ち殺せ」というゲームです。一般的なサーバーでは、9割くらいの人が人を殺すために来ているんですね。本作で使用したサーバーの方向性が、もしかしたらロールプレイを推奨してるサーバーに近いのかなと個人的には思いますね。
Q:本作のように、プレイヤー同士で会話が成立したり、定期的に会ったりする関係は珍しいのでしょうか?
松崎さん:殺伐としたゲームの中でも、ちょっとした出会いとかはやっぱりあります。でも「アイム・フレンドリー!」と言いながら近づいてきた人に、逆に撃ち殺されたりすることもあります。ただ、サーバーの設定によっては、中には「セーフゾーン」のようなところがあったりもするんですね。そういうところで、出会った人と会話して「どこどこへ行こうよ」とか徐々に仲良くなって、ゲーム上だけなくリアルの方でも付き合いができるっていう人もいますし、非常に面白いゲームだと思います。
Q:松崎さんはこれまで、〈DayZ〉をどのくらいプレイしてこられたのでしょうか?
松崎さん:前身となるMOD版との合算ですが、おそらく2500時間ぐらいはやってるかなと思います。1日6~8時間とかは普通にやっていて、一番多かったのが、1日13時間くらいですね。何人かのプレイヤーで集まってグループを作っていたんですが、その拠点に対して敵から攻撃を受けたんですね。最終的には急襲されちゃって。こちらは9人くらいで応戦してたんですけど、相手は20数名。9時間ずっと攻撃され続け、防衛し続けましたが最終的にはヘリが突っ込んできて拠点が爆破されたという感じですね。
Q:13時間はすごいですね。生活の大半をゲームしている時間の方が占めるということは、実際にあるのですね。
松崎さんやはり「リアル」の生活がベースにはなりますが、ゲーム内の生活も結構楽しめるゲームです。例えば、種を植えて畑耕して魚釣ったりとか、必ずしも戦いだけじゃなくて他のことでも楽しめる、というゲームです。人によっては、〈DayZ〉で生活し、その様子をオンライン上で配信し、それに対して観ている人が投げ銭を投げ、それを収益にして生活している人もいます。だから、結構ある意味リアルに近い生活にはなるのかなとは思います。
Q:複数人のプレイヤーで集まって活動することも実際にあるのでしょうか?
松崎さん:一人で行動していると割とすぐ殺されてしまうゲームなので、多人数で行動した方が良いのかなとは思います。でも映画の中にも登場していましたが、ソロでずっと行動してあの世界を楽しんでいるという人もいますので、必ずしもというわけではないですね。何でもありで、騙し騙され。そういうのを理解した上で楽しむと面白いゲームですね。
Q:本作では〈DayZ〉の果てを探す旅の中で、自爆する人が何人か出てきたのが印象的でした。
松崎さん:ゲームをやっている時に、同じ風景が延々ずっと続くというのは、もう苦痛でしかないんですね。周りのプレイヤーと会話していてもネタも尽きますし。そうなると必ずおかしくなる奴が出てくるんです。自爆する奴は当然出るし、「リスポーン」(respawn)と言いますか。もう一度復活すると、全然別の場所で生まれちゃうんですれども、「もうこれ以上ここで無駄な時間を過ごしたくない」というのがあるのかなと思いますね。でも似たようなことは僕も結構やったりもするんです。〈DayZ〉では乗り物に乗って移動することもできるんですが、途中で燃料が切れてしまうんです。何にもないところだと補給もできず、携行缶などを携えて行って足しても結局限界がくるので、そういう場合はああいう結果になるのかなと思います。あの状況だともう戻ろうにも食料も尽きているので、そういう場合はまあ、自死を選ぶという感じですかね。
Q:ゲーム内のバグを探して楽しんでるカップルもいましたが、バグ探しをよくやる方はいるんでしょうか?
松崎さん:むしろ〈DayZ〉というゲームを遊んでいると勝手にバグと出会う、というのが正しいのかもしれません。何にもないところで、例えばほんの2、3センチしか段差がないところでバギーがひっくり返って死ぬとか、結構色々なバグがあります。本作に出てきた「空を泳ぐ」という状況は初めて見ましたが、「ああいうこともこのゲームだったらあるな」という感じですね。それも含めてみんなが楽しんでるっていうその状況そのものが、僕からすると「すごくプレイヤーのモラルが育っているな」という感じがします。
Q:意図的にそのような仕掛けが散りばめられている空間なのでしょうか?
松崎さん:というよりは、作った上で発生したバグを直す気がない、というのが正しいんじゃないですかね。(笑)
Q:印象的なキャラクターやシーンはありましたか?
松崎さん:テーブルの上で一人が座っていて、それをみんなで囲んでいるあのイカれた集団「深夜の闇」と、夜にのみ行動するというプレイヤーがいたと思うんですけど、そこですね。特に、夜って〈DayZ〉だと真っ暗で周りが見えなくて、星を頼りに移動することになるんですけど、夜に、しかも他の人と出会わないように行動するっていうのは、僕のプレイスタイルとはちょっと違うので非常に印象深く残りました。〈DayZ〉はポスト・アポカリプスの世界なので、荒廃していて、そんな世界だからこその美しさ的なものがこのゲームにはあると思います。昼間だと普通の風景なんですが、夜だとガラッと雰囲気が変わるので。そういうところを楽しむっていうのは、非常にオツなんだなと思いますね。
Q:「現実逃避のためにここに来ている」というプレイヤーが結構いましたが、実際にプレイしている方は「ここがもう一つの自分の現実」という感覚があるのでしょうか?
松崎さん:少なくとも、リアルの生活にゲームプレイの時間が影響を与えている時点で、もう一つのリアルがそこに存在し始めていると思います。実際、僕が6~8時間とかプレイしていたということを考えると、既に「もう一つの現実」なのかなと。ただ「プレイするかプレイしないかを選択できる」という点では、リアルとは違うと思いますね。